翻訳作業は、下記の「翻訳の方法」をもとに行っています。英語と日本語の相違に着目して考案した翻訳メソッドです。英語と日本語は「遠い言語」であって、翻訳に際しては、ギャップを意識的に埋める必要があります。

自動翻訳では、英語を日本語に訳すときには「英語のように」翻訳されます。これが読みにくい理由です。日本語との異なり、欧州の近い言語同士では、自動翻訳の精度は高いと思われます。

翻訳の方法(翻訳方法論)

1. 段落中の論理の流れ(相違1)

英文の段落は通常、その段落の主題(テーマ)で始まり、その後、語句の定義(語句が初出の場合)、補足、理由、例、証明などが続き、その段落の結論で終わる。この結論が、次の段落の主題になる。一段落は、4~6文で構成されるのが普通。また、段落は、概要から詳細へ(general to details)という流れで進む(下記を参照)。段落中の論理の流れだけでなく、段落と段落のつながり、さらに文書全体の論理の流れにも注意して訳す必要がある。

日本語でいう起承転結に似ているが、それほど厳密ではなく、「転結」は一つになっていることが多い。日本語は「段落」という概念は薄く、一文ごとに段落が変わったり(行換え)、反対に1、2ページが全部一段落という例もある。

段落中のキーワード(重要語)の流れにも注目する。キーワードは、同義語・類義語が使われることもあり、必ずしも同一の語句・表現ではない(下記を参照)。段落のほか、文書全体でもキーワードの流れに注目する。キーワードは、文書が進むにつれて変わることが多い。

2. 概要から詳細へ(相違2)

英語の段落は、概要から詳細へ(general to details)という流れで進む。どこが概要でどこが詳細(補足、詳述、理由、例など)かを考慮しながら訳す。一方、日本語の場合、概要と詳細の区別が希薄で、渾然一体。主題、補足、理由、詳述、例などが無分別に飛び回るので、結局、何が結論かが分からなくなることも多い。

「概要から詳細へ」は、段落だけでなく単一の文にも当てはまる。例えば、導入のit、状況のit、時間のitはいずれも、この例。強調構文のitは、文法書にあるように強調という性格もあるが「概要から詳細へ」の例とも言える。What is it that … ?なども一例。

さらに、「概要から詳細へ」という流れは、文書全体についても言える。言い換えると、英語の文書(とくに技術文書)は論理的にピラミッド型で構成されており、詳細は常に後に置かれる。文書をピラミッド構造で作るという方法は、日本人は不得手で、第1章だけが不釣り合いに長いという例もある。

段落にはストーリー(物語)がある。前後のつながりが非常に悪く「ぶつ切り」の(文と文のつながりがない)訳文になってしまうのは、段落中の論理の流れを考慮しないため。これは、Tradosなどの翻訳メモリツールを使った「穴埋め式」訳文に顕著。

3. 同義語・類義語の多用(相違3)

英語は、同じ語句の繰り返しを忌避する傾向が非常に強い。日本語の感覚からは異常なほどである。同義語、類義を多用して「相手に分からせる」ことが目的かもしれない。または、同じ語句を繰り返すと教養がないと思われる、というのも理由かもしれない(知人のアメリカ人の話)。

段落中のキーワード(重要語)は、その段落中では、同義語・類義語(言い換え)で示されることが多い。とにかく、同じ語句を使うことは嫌われる。そのため、初出のキーワードが次回、どの語句や言い回しで表現されているのかを追跡しながら訳すことが必要。言い換えとして使われている同義語・類義語を全部、別の日本語表現にしては読者が混乱する(この種の訳文が非常に多い)。

段落中の同義語・類義語には通常、定冠詞(the)が付くので、新しい概念(aが付加される)と区別できる。品詞が変わることもあり、例えば最初のキーワードが名詞の場合、次は動詞で表現されることもある。キーワードには、2、3種類くらい同義語・類義語があるのが普通(したがって、用語集には全部、記載する必要がある)。

4. 主語の性格と位置(相違4)

日本語の主語は、文法上の主語ではなく主題である場合がほとんど。日本語の「~は」は、大半が「~についていえば」の意味。口語では、「~って」が主題を提示するときの表現。対して、英語では文法上、主語が必要。したがって、英語の主語が必ずしも日本語の主語にはならない。英文のどの語句を日本語訳文の主題(主語)にするかは、状況によって異なる。

上記の理由から、英文の語句を逐次、日本語に訳すのではなく、英文の意味を日本語ではどのように表現するかを考えるのがコツ。また、直前の英文のキーワード(同時に段落の論理の流れ)を念頭に置いて、日本語訳文の主題(主語)を決める必要がある。

5. 無生物主語(相違5)

英語では、無生物主語の文が多い。無生物主語の文は、因果関係=原因と結果(causality)に由来する。文だけではなく、段落、ストーリー全体も因果関係で貫かれている。

英語の場合、因果関係を表現できる動詞であれば、無生物主語を取ることになる。具体的には、生成、追加、変更、削除、排除を示す動詞(状態ではなく動作に関連する動詞)は、ほとんど無生物主語を取る傾向がある。西欧言語は抽象概念の扱いが得意であることも無生物主語の文が多用されることの理由。

一方、日本語の動詞の主語は、ほとんどの場合、人または動物である。このため、無生物主語の英文は日本語に訳しにくい。たとえば、operateはよく「運用」と訳されるが、他動詞の場合はこれでも問題はないが、自動詞の場合、主語は無生物であり「運用」(日本語では普通、人間か組織が主語)では収まりが悪い。

無生物主語の文は、受動態で訳すのが解決方法の一つ。ただし、日本語の受動態は「被害者意識」があり、その点が多少問題。

6. 関係詞(相違6)

学校英語で教える返し訳はできるだけ避ける。関係詞があっても前から訳し、読み返さなくても済む文を作る。読み返すと時間が倍かかる(人間の思考は、直線的に進む)。先行詞の意味がthat、whichなどに「蓄積」されている。ただし、thatは先行詞とつながりが深く、だから非限定用法がない。

基本的には、関係詞で文を区切って訳す(別の文にする)。先行の文と関係が深いthatでも、区切る必要がある場合もある。関係詞以降は、一般に先行部の補足や追加であり、したがって区切ったほうがgeneral to detailsの原則に忠実な訳文に仕上がる。つまり、読みやすい訳文になる。関係詞だけでなく、toを含む文も前から訳すとすっきりすることが多い。例としては、too ~ to do …=~ しすぎて … できないがある(toは、意味は未来。forも同じ)。

主な例外として、マニュアルなどの章の概要説明がある。たとえば、This chapter explains…などで始まり、そのあとの説明が長い場合、「~では~が~可能ですが、本章では、この機能について説明します」などとするとうまく行くことが多い。

7. 受動態(相違7)

英語の受動態は機械的で、受動態を使う理由は3つ。

(1)主語に重点を置く必要がない場合。たとえば、実験、操作手順の説明など。受動態で書かれていても、実験したのは「私(達)」だが、それは自明であるため受動態を使う。たとえば、This command is (can be) used to define … は、You (can) use this command to define … と同じ。「このコマンドは、~を定義するのに使われる」ではない。 実験の説明も同様で、(In our experiment,) labeling was performed …は、we performed labelingの意味。

(2)前文とのつながりの関係で受動態の方がスムーズに流れる場合。たとえば、受動態を使って「既知」の用語を冒頭に置くことで、流れがスムーズになる。

(3)能動態では複雑な部分が前に出てしまう場合。この場合、文を読みやすくするため、受動態を使用して複雑な部分を後ろに配置する。

なお、日本語の受動態には「被害者意識」がある(捨てられた、逃げられた、盗まれた、など)ので多用には注意が必要。

8. 句と節(相違8)

日本語で句であるべきところが英語では節、または、その逆。英語は、名詞句や名詞相当表現を単純で「飽きない」動詞(give、get、take、allow、provideなど)でつなぐという形式が多いが、日本語は動詞を中心にして文を作る。語の意味の指示性(意味の明確度)は、名詞が一番高く、感嘆詞が最低。

9. 単語の守備範囲(相違9)

日本語の語と英単語の意味の範囲、領域のずれ。1対1では対応しない。辞書の訳語はあくまで一例。英単語2つで日本語の訳語一つ、逆に一つの英単語を訳文では2つで表現しなければならないこともある。結局、英英辞典を引く必要あり。

機械の部品は、日本語では固有名詞の感覚だが(部品の名前は一つ)、英語では普通名詞。部品名が文中で変わることも多い。日本語の場合、部品名が変わると別の部品かと思う。そのため、訳文では部品名の統一が必要。

英語では、概念と言葉の距離は日本語より遠いように思われる。英語圏では、概念と言葉とは異なる(概念は概念であり、それを指す言葉は複数ある)という意識が強い。日本語では、単一の概念=単一の言葉・語句の傾向がある。

10. その他の英文法事項・語法(相違10)

(1)単数・複数と数量詞

日本語は数の概念が希薄で、それほど意識はしない。日本語の場合、名詞をまず集合名詞として使い、その後、数量を表現するのが普通。たとえば、「教室に生徒が30人いる」が本来(従来から)の日本語。ここで「生徒」は集合概念。ただし、最近では「英語化」が進み、「教室に30人の生徒がいる」式も多い。

数量詞は、英語では形容詞で、日本語では副詞(用言にかかる)。可算名詞は、複数形で「一般(または全体)」を表すことが多い。この方法で、先行の名詞をtheyで受けることができる(三単現の簡素化が可能)。

(2)冠詞と代名詞

冠詞は、日本語にはない。原則として相手(読者)にとって既知のものや概念、または実際に存在するものや概念には、theをつける。ものや概念が一般化すると(誰にとっても既知)、冠詞は抜け落ちる。aは「新しいもの」を表し、したがって文中で既存のものか新しいものかの区別が可能。

代名詞は、単なる代替語ではなく抽象化された名詞。話者から見ると、heはSmithより「価値」がある(話者の側に近づく)。一方、日本語の場合、「彼」とすると、「Smith」から遠ざかる。日本語では、自分の娘を「彼女」とは言わない。日本語では、代名詞を使わずに前出の語句を繰り返す。繰り返しても、それほど耳に触らない。

(3)その他